会社の値段/感想

世の中カネがすべて、カネで買えないものはない。

こんな発言を断片的に取り上げられ、批判にさらされた堀江貴文氏。しかし、これだけを切り取ってしまうと嫌な奴に見えてしまうけれど、彼の真意は続いていたという。

私はお金はフェアだということを言いたいんです。どんなものにも値段はついていて、人の命にすら値段はついている。逆に言うとそれほどフェアな指標ですよ、ということなんです。お金というものは人間が発明したものの中で、一番の発明だと思います。本当はお金で買えないものがあってはいけないはずなんです。だってお金で買えない価値があるように見せるからこそ、既得権益であったり権力があったり、いろんなものを生んじゃうんですよ。お金以外の尺度があるとしたら、そこに参入障壁が出来ちゃうんですよ。バカだったからダメだとか、家柄が悪かったからダメだとか、身分が低かったからダメだとか、肌の色が違うからダメだとか。それって差別じゃないですか。

ここまで聞けば確かになるほどと頷ける。ものに値段をつけて売り買いの実態をあきらかにすることにより、その不合理な現実が他人の目にもはっきり見えるようになる、不当なことがやりにくくなる、その効果が重要なのだというこの発言は至極ごもっともだと思う。

こんな問答で始まる本書は、企業価値とは何か、誰が創造するのか、そして資本主義経済体制の下で株式市場やM&Aを通じて、経営者は如何にして評価されるべきなのか。そんな素朴な疑問について、さまざまな事例を通じてわかりやすく、具体的に紹介されている書籍です。その為、まさにファイナンス入門書と言っても過言ではありません。入門書とは言いますが、その内容は数式をできるだけ使わずに読み物と完結させているところが本書の素晴らしいところではないかなと思います。

ここで記載されているのは自由市場の掟そのものであり、資本主義という体制で生きる私たち、つまり、持てる者の嗜みであると筆者は問います。

会社経営者のみに関わらず、その組織に属する方にも、はたまた投資家にも企業価値とは一体なんなのかを分かり易く解説している名著です。

会社の値段/レバレッジメモ

会社とは?
「仕組み」であり「器」にすぎません。あくまでも主役は会社を構成する多くの個人であり、会社は社会がより豊かになり、そこに住む人々が幸せになるための道具であるはずです。

基本ルールとしての3つの米国流

  1. 単純明快に数字で判断するのを好む
  2. ルール化を大切にする
  3. でたとこ勝負で決断が早い

会社を毎日ひとつ卵を産む一羽のガチョウに例える
このガチョウを売ってほしいという人が現れたら、どうやって「適正な」値段をつければよいでしょうか。羽がきれいなので飼って眺めたいという人にとっての値段、殺して肉を食べたい人にとっての値段、いろいろな視点があるでしょう。しかし、折角卵を産むわけですから、その価値を評価しない値段で売ってしまうのはあなたにとって損な取引です。このように、永遠に毎年生み出す利益(キャッシュ)の合計額がこの会社の値段となる、これが企業価値算定の基本です。

経営者の役割
どこからいくらで材料を仕入れるかを決定し、部品の品質を厳しくチェックし、効率の良い生産ラインを設計し、新たな商品開発のための研究活動の方向性を示し、銀行や投資家から適正なコストで必要資金を調達し、どういう販売チャンネルでどのような価格で、どういうユーザーに自社製品の魅力を訴えてゆくか…。幾多の選択肢の中から決断するのが経営者の役割であり、その判断が巧いか下手か、その決定を実行する体制をいかにうまく作れるかの手腕、によって企業価値は「創造」されたり、「毀損・破壊」されたりするのです。

経営者の質
勝負の分かれ目はモノの値段、適正価値を見極める眼の確かさと、その適正価格より安くても売りたい人、適正価格よりも高くても買いたい人、を見つけ出す能力にある。

会社の値段/まとめ

筆者は一環して知らないと損をするという資本主義のルールを本書を通して日本人に伝えているのではないかと感じます。

この日本は紛れもなく資本主義国家であり、意識する、意識しない、見える、見えないに関わらず確実にそれに基づいたヒエラルキーが存在します。そんな中で生きる僕たちはこの現実を直視することで仕組みを知り、攻めないまでも(攻めてもいいとは思うけどね)自身や自身の周りを最低限の守ることが出来るだけの知識がなければいけないでしょうし、これまでよりもより自分たちで行動を起こしていかなければならないのかもしれません。

そんな現実を痛烈に、時に優しく学ばせてくれる書籍です。会社の値段って一体なんだろう?会社の価値って何で図られているんだろう?そんな疑問を少しでも持ったことがある方にお薦めです。ということで、私は大いに参考になりました。

会社の値段 (ちくま新書)
森生 明
筑摩書房
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