星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則/感想


偏見や先入観で物事を判断してはいけない。

これはビジネスにおいてもプライベートにおいても常に気を付けておこうと思っているところなんだけれども、僕は無意識のうちのその”先入観”を全力で発揮してしまっていたようで自身にがっかりすることがある。本書もその中の一つだろう。

旅館やホテルの再生事業を手掛ける星野リゾートについてはさまざまなところで話題になっていたり記事になっていたりするので、何かと接点は多かったと思うのだけれど、星野リゾート関連の書籍を手に取ったのは初めて。正直なところ、なんだかミーハーっぽくなるのかなという先入観が働いて「読んだら負け」という意味の解らない思考回路が入り混じっていたのだと思う。ごめんなさい。

本書を手に取ったきっかけはプロフェッショナル 仕事の流儀で取り上げられていた言葉【おまえが考える7割で良しとして、褒めてやれ】というのグッと来た、というのが要因であります。この言葉は星野社長のアイスホッケー部の監督のお言葉だそうで。

本書の中では題名通り、教科書の重要性を説いており、その際に最も重要となってくることは教科書通りに実行することであると述べている。

例えば、ある戦略を実行する際には「3つの対策が必要だ」と書かれていたら、3つすべて実行する。そうしなければ教科書の理論は効果を生まないという。まぁ、それはそうだろう。書籍の著者側から言えば大事なことを何度も編集されて最終的に残った、”これだけは削ってはいけない”という3つが残って記載されている可能性もあるわけだから、最低限、3つといったら3つは実行しなければ成果を生みにくいのは当たり前でもある。ただ、この”当たり前のことを当たり前にやる”ということこそが重要であることは忘れてはいけない視点だ。

そして本書の魅力は星野リゾートがこれまでに再生に携わった旅館を事例として紹介し、どういった教科書をベースにして、どういった戦略を用い再生していったのかを具体的にみることができる書籍だ。

そのすべてを紹介することはできないけれど、1つだけ抜粋しようと思う。

個人客に狙いを絞って客室数を半分に

これといった特徴がない企業は、どうやって”その他大勢”から抜け出せばいいのか。星野リゾートは旅館の再生を進めるとき、その視点を忘れない。

団体客・個人客の両方を受け入れていた典型的な80年代に台頭していたスタイルのどこにでもある中規模の温泉旅館は非常に厳しい状況にある。そんな温泉旅館を、個人客に狙いを絞って客室数を半分にし、尚且つ高級旅館として収益力を高めていく。


これに使った教科書はマイケル.E. ポーターの競争の戦略だ。(僕も大分前に買って積本になっているが…)

勿論、安易な方針転換で高級化しても成功はなかっただろう。自社の分析、競合の分析によって結果的にこの温泉は高級化がベストな方針だと結論づけられ、その結果、サービスを一本化し、顧客満足度を高める工夫を積み重ねている。

星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則/まとめ

これに限らず、二兎を追い収益が悪化している業種なんて山ほどあるわけだが、二兎を追っているものほど、一兎に絞り込むことに恐怖を覚えるだろう。「既存客がいるのに…」「それでは収益が減ってしまう…」などなど。ただ、何かを変えるためには時にリスクを取らなければいけない。そのリスクを取る際には徹底的な競争の戦略によって正しいリスクを負わなければいけないことをあまり語られることは少ない。

今回紹介したのは最もオーソドックスな競争の戦略を利用した再生ストーリーだが、本書ではこの他にもさまざまな状況のリゾートや旅館の再生に取り組んだ内容がお薦めの書籍と一緒に紹介されており、リゾート関連に興味がない方でも参考になる内容は非常に多いはずだ。

先入観はいけない。基本ベースの戦略の書籍ではあるけど、特別長いわけでもないし、戦略も簡素化して記載しているところも見て取れて非常に読みやすい。こんな面白い書籍はもう少し早い段階で読むべきだったかもしれない。

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内村鑑三氏が星野温泉の2代目へ送った「成功の法則」は個人的に大変参考になった。

星野リゾートの教科書 サービスと利益 両立の法則
中沢 康彦
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