V字回復の経営―2年で会社を変えられますか/感想
株式会社ミスミグループ本社の現会長、三枝匡氏による書籍です。
個人的に縁のある同社の現会長様の書籍ということで、多方面で大絶賛だったため、一度は必ず読んでおこうとして著書のすべて買い溜めしておきましたが、この度やっと読むことができました。
文庫版ですが総ページ数は400ページ強ある為にかなりハードですが、三分の一程度読みだしてしまえば寝る間も惜しんで読み続けることになるほどに引き込まれてしまう素晴らしい書籍です。
文中に「私は本書を自分のビジネス人生の総決算のつもりで書いた」とありますが、もう、まさにそのくらい気合の入った書籍です。
V字回復の経営―2年で会社を変えられますか/内容
太陽産業という架空の上場企業を再建をどうやって救っていくのか?という内容を外からの視点と中からの視点で書かれた書籍です。再建にあたる経営陣は「2年で黒字化できなければ、退任します」という言葉で、自ら退路を断つことで社員の甘えを殺し、皆を巻き込む「戦略」で一気呵成に勝ち戦へ転じるお話しです。
架空とはいえ、本書に登場する太陽産業は90%以上は実在する企業を元に書かれたということで、昔ながらの大手企業におけるヒエラルキー型組織をコペルニクス的転回に変化させる取り組みを行った記録を生々しく描いています。
V字回復の経営―2年で会社を変えられますか/レバレッジメモ
皆で一つの方向に走るという重要性
会社を元気にするためには、その会社の「戦略」を大きく組み替えなければならない。あるいは「仕事のやり方」をドラスチックに変えなければならない。しかし何よりも大切なことは、危機感をばねに「心」と「行動」を束ね、皆で一つの方向に走ることだ。
改革の押しボタンとは
改革者が有効な手を打つための第一歩は「事実の把握」だ。自分で組織の末端を歩き回り、「ハンズオン」つまり自らの手で現場の細目に触れて事実を確かめなければならない。そこで見る景色の中に必ず「改革の押しボタン」が隠れている。それは、それなりの考え方と経験を積んだ者だけが見分けることのできる押しボタンである。
変革の第一歩
まず眼前の事実を事実として認識すること、異なる見解や多様な価値観を表に出してその違いを認め合うこと。
改革者が遠慮すれば改革者が殺される
この類型の人が否定的発言を続け、前向きな人々をくじけさせ、改革の積み木を崩そうとするなら、断固として「切るべきガンは切る」の蛮勇が必要になる。
事件を起こせ
改革者は固く覚悟を決め、ガタガタと音を立てて、人々の心を揺らし、インパクトを与える「事件」を起こしていかなければならないのである。それも単なる演技や計算ではだめである。自分の信念、生き様、そして注意深く組み立てた明快な戦略を、熱い心で皆にぶつけなければならない。
「好きか、嫌いか」ではなく「正しいか、正しくないか」
組織の政治性につながる「好きか、嫌いか」という感情的反応を「正しいか、正しくないか」という論理的反応に置き換えて、自分を納得させることが重要で、その分かれ道は何かといえば、組織の「目標」や行動の「意味」が皆に共有されているかどうかである。
不振会社に必ず見られる特徴
社員が競争相手のことを知らない。
小さなビジネスユニットのメリット
大きなビジネスユニットよりも、みんなが顧客を近くに感じるようになる。それで皆の切迫感が高まる。自分で「商売の基本サイクル」を早く回そうとするだろう。
戦略の内容がお粗末な原因
戦略の内容が貧弱な場合、考えられる理由の第一は、トップの「戦略志向」が弱いこと。戦略立案がほったらかしにされる場合ですね。そして第二は、戦略の「立案スキル」が不足していること。戦略を編み出す技量や知識が低ければ、陳腐な戦略しか出てこない。
多少サボっていても継続的効果を発揮するまでが重要
「創って、作って、売る」の仕組みを早く定着させ、戦略を末端まで徹底し、改革シナリオが「多少サボっていても継続的効果を発揮する」ところまで持っていかなければならない。
成功の要因とステップ
- 改革コンセプトへのこだわり
- 存在価値のない事業を捨てる覚悟
- 戦略的思考と経営手法の創意工夫
- 実行者による計画作り
- 実行フォローへの緻密な落とし込み
- 経営トップの後押し
- 時間軸の明示
- オープンでわかりやすい説明
- 気骨の人事
- しっかり叱る
- ハンズオンによる実行
競合を上回る成長を続けている企業の「勝ち戦の循環」
競合を上回る成長を続けている企業は「勝ち戦の循環」といわれる循環が回っており、常に組織の緊張が保たれ、皆が目標を共有し、社員の力量が押し上げられていくといいます。その好循環を表したのが下図です。
要約します。
- 顧客ニーズは時代の変化とともに変わっていき、それに伴って競争のカギもシフトしていく。
- 誰が本当の競争相手なのだろうか?最近は業界の境が曖昧になっているから、思わぬところに潜在的競争相手が潜んでいるかもしれない。
- そうして定義された市場の中で、われわれは常に成長分野に参入しなければならない。
- それも他社の後追いではなく、あえてリスクを背負い、常に先陣を切って参入するべきである。
- その市場で勝ちを納めるまで執拗かつ集中的な勝負をかけていく。
- その為には優先度の低い事業から、経営資源を移動させることが必要。
- 陳腐化する前に、鼻の差でいいから常に先行する商品。事業開発が行われるように、いつも成長分野に参入する努力が続けられなければならない。
この正の循環を絶えず回すことが勝ち戦の循環であり、これらはどんな分野でも応用可能な循環ですね。これを図で視覚化することで、私自身も多くのことに気づきがありました。
V字回復の経営―2年で会社を変えられますか/まとめ
本書は紛れもなく素晴らしいビジネス書で、話自体は大企業の中における話を描いていますが、どんな規模の企業にも落とし込むことができる本当に参考になる書籍です。
ここで書きだしたレバレッジメモ以外にも、改革を成功へ導くための要諦50や不振事業の症状50など、参考になりすぎる話しか書かれていませんが、これらの項目を書いてしまうと飛んもないボリュームになってしまうので、昨日書かせて頂きました。
また、本書を読んだだけでは「大手企業だからじゃないの?」という疑問符を投げかける輩も少なからずいるでしょう。そんな方のために三枝匡氏は下記のように本書をまとめています。
※以下、株式会社ミスミグループ本社の社長に就任した際のスピーチより。
黒字会社であろうが赤字会社であろうが、会社の中身を分解し、根底にある「個の問題」に迫っていくと、たくさんの良い点・悪い点、強み・弱みに出くわす。どんな優良会社であれ、その弱い部分や陰の問題に切り込んでいくアプローチは、赤字会社再建における改革ステップと変わらない。違いは「時間軸」の余裕度に多少の差があるだけだ。世の優良会社は、トップがこのアプローチを平時かたタイミングよく繰り返しているからこそ、優良企業であり続けることができる、赤字会社も黒字会社も、経営者に求められている技量は同じだと思う。
赤字企業であろうが黒字企業であろうが、問題点の根底まで迫り、さらに改善を繰り返すことでより良い流れに落とし込む。これが真理でしょうね。
会社経営、ビジネスの改善だけでなく、個人的にもさまざまな面で多くを学ぶことができた素晴らしい書籍です。読み終わった今も「何故もっと早くに読んでいなかったのかっ!」と自分を責めたくなりますよ。是非!
日本経済新聞社
売り上げランキング: 819
最近の記事
- 今、付き合っている運用型広告代理店は大丈夫なのか、今後どのように運用型広告代理店を選定しどのように付き合うべきなのか、を見極める術2016年09月28日
- 経営の力2016年03月11日
- 当たり前のことを当たり前にこなす人は総じて「当たり前のレベル」が高い2016年03月07日
- これから独立する君へ知っておいてほしい15のこと2016年02月10日
- 2015年に読んだけど紹介しなかった良書13選2016年01月18日