大局観 自分と闘って負けない心/感想


将棋棋士、羽生善治氏による書籍で、以前より大きな興味を持っていたので、積本の中から引っ張り出して読破。

将棋界でも永世名人、永世棋聖、永世王位、名誉王座、永世棋王、永世王将などの全7タイトル戦で6つの永世称号の資格を保持している棋士で、将棋には少ししか興味がない僕でも知っている棋士の中の一人だ。

本書の題名にもなっている「大局観」とは文字通り、「部分だけではなく、全体を見て物事を決める」という意味なんだそうだ。囲碁のことわざで「着眼大局、着手小局」という言葉があるが、非常に似た言葉だ。

さまざまな実践を通して得た知見を、本書では羽生氏なりに公開してくれている。

大局観 自分と闘って負けない心/レバレッジメモ

将棋界の言葉
反省はするが、後悔はしない

価値に不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし
勝負事には「幸運な勝利」はあっても、「不運な負け」はない。「負け」には何かしらの理由がある。

リスクをとらなければ成長は止まってしまう
新しい作戦をいきなり実践で試すのはリスクが高く、負けて一時的に勝率が落ちることもあるのだが、本番で試すリスクをおかさない限り、プロの棋士としての成長はない。むしろ、リスクをとらないことが最大のリスクだと私は思う。なぜなら、今日勝つ勝率が最も高い戦法は、三年もたてば完全に時代遅れになっているからだ。リスクにきちんと正面から向き合い、リスクに伴う恐怖や不安に打ち勝つことが、永続的にリスクを取り続ける王道だと、私は思っている。

過去に引きずられて判断を誤るな
思い出を美化するのはしゃれているかもしれないが、自分が選ばなかった膨大な量の選択肢のほとんどは、「選ばなくてよかった選択肢」のはずだ。

「慣れ」によって余裕が生まれる
「こうすれば自転車に乗れるようになる」と理屈を教えてもらうだけでは、誰も乗れるようにならなかったはずだ。実際に動かしてみて、何度も転んだりしながた、自転車に慣れていったと思う。さらに、きちんと説明できるようになるためには、もっともっと練習をして自転車に対する理解を深めるか、仮に乗れなくても一つひとつの動作を分析し、理論を構築できるようにならなければならない。それができて初めて、論理的な説明が可能になる。

「検索」に依存してしまうと、自分の可能性を小さくしてしまうのではないか?
「検索」は選んでいるのと同時に、たくさんのことを排除していて、ユニークなこと、変わったことを考えたり、試したりする機会が減ってしまうのではないかと思うこともある。検索は検索で非常に有効・有能なツールであることは間違いないが、それと同時に、自分で責任を持って懸命に考えて選択をすることも重要だ。そのプロセスから浮かび上がる発見や気づきは、検索では得られないような気がする。

情報や知識は食材のようなもの
生で消費をすることもできるし、加工されているものも消費できる。現代は、豊富な食材が山積みされた市場が開かれているようなもので、実は可能性は大きく広がっていると思う。まして、今までは高級食材として手の届かなかったような知識や情報が、日々、下落して目の前に現れているのだ。これは実に驚くべき現象である。

直感と閃き
きちんと理論立てをして説明できるのが直感で、なんだかわからないがこの方が良いと考えるのが閃き。直感も閃きも、あまり過信せず、一つのツールとして上手に使いこなすのが肝心ではないかと思う。

大局観 自分と闘って負けない心/まとめ

前半は非常に興味深い内容が続くが、どうも後半が引き締まらないので後味があまりよくないが、随所に良い内容があるのが本書の特徴かなと。

意外だったのが、棋士は検索エンジンを使って対戦相手などの過去の打ち方などを入念に調べたりするらしい。それらを繰り返すうちに上記でも上げている、「検索」に依存してしまうと、自分の可能性を小さくしてしまうのではないか?という思いが出てきたのだろう。

批判を恐れずに言えば、この羽生氏の思考は正しいと思う。「検索」は答えや過去のデータを簡単に出してくれるが、答えまでのプロセスは大きく省いてしまっているし、そのプロセスを検索から感じることができるような人は恐らく少ない。その為、そのプロセスから浮かび上がる発見や気づきは、検索では得られないような気がする。という意見には激しく同意するところがある。

これは個人的にも数年前から感じていた部分だけど、将棋だけに限らず「検索」は便利だ。便利なツールだけど”使い方”を誤ってしまうと、必ずしも便利には働かないという良い例だと思う。

話は変わるが、羽生氏の面白いところはこれまで”目標”を立てたりすることはないというところだ。常に無計画、他力志向で動いているらしい。さまざまなビジネス書や自己啓発では「目標を持つことが大事」とばかり書いてある中で、目標は立てないと断言する。

羽生氏曰く、「人生は突き詰めてはいけないと思う。何のために戦うのかは、70歳になってからじっくり考えたい」と本書を締めている。

これまで持っていた羽生氏のイメージとは全く異なるイメージを本書を通して知ることになった。なかなか同調できない部分もあるけれど、こういう考え方はこれまで読んできた書籍の中でも非常に稀であると思う。一つの考え方として、実に面白い。

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