徳川慶喜家の食卓/感想


グーグル ネット覇者の真実 追われる立場から追う立場へのような読み応えのある濃厚な書籍を読んだ後には必ずと言っていいほど”別ジャンルの本を読みたい衝動”に駆られるのであります。

本書はどこで見て購入したのかは忘れてしまったのでありますが、題名に書かれているように徳川慶喜家の食卓を知ることができるということで購入。田舎育ちの私は食が趣味なのであります。将来は糠床などを混ぜていたいのです。

徳川慶喜公といえば大政奉還をされ、良くも悪くも徳川家の中でも1、2番目に認知度の高い将軍さまであるのはご存じの通り。

さて、本書の筆者は徳川慶朝さんといい、広告系のカメラマンとして活躍されたあと、フリーのカメラマンとなり、徳川将軍コーヒーなどを焙煎したりしながら過ごされているようだ。恐れおおくも徳川十五代将軍、徳川慶喜公直系の曾孫がいるというのは昔テレビで見た記憶があるが、どうやら現在は茨城県のひたちなか市に住まわれておるらしく、それこそが徳川慶朝さんであるそうな。(ちなみに水戸藩とは特に関係なく茨城県におるらしい)


将軍さま、というとどうも強面を想像したり、慶喜公であれば幕末のイケメンを想像してしまうのだけれども、徳川慶朝さんはさながらリリーフランキーを思わせる憎めないビジュアルが印象的で、どうやらこの手の方々は女性が大変お好きなようだ。本書でもいたるところで女性ネタがちりばめられていて、電車の中で読んでしまうと笑いを堪えるのに必死で大変危険なので読者諸君は注意すべきであろう。

本書では徳川慶喜家にまつわるエピソードや実際の慶喜公はどういったものを食していたのかの詳細が記されており、それを知るだけでも歴史をたどるような形で十分楽しめるのだが、個人的にはこの慶朝さんの文章だったり表現方法だったりとそういった箇所に魅力を感じるのであります。

たとえばこんな文章…

おはぎが好きだ。糯米とあんこの組み合わせがたまらない。わたしが糯米だったらなんとしてもあんこさんと結婚したい。

さすが将軍さま。まぁ、並みの平民に書ける文章ではない…。

こんな表現も…

贅沢と質素、裕福と貧乏を決める尺度をうなぎで測っている。

大好物のうなぎを財布の中身を気にせずに食べれるかどうかが贅沢と質素、裕福と貧乏を決める尺度としているようだ。面白い人ではないか。

ここで紹介する以外にも、自身の食へのこだわりを多岐に渡って紹介しているが、そのこだわりが尋常ではないのだ。男の一人暮らしでありながら糠床を持ち、お米は自身のオーダー米(農家に直談判して作ってもらっている)を土鍋で炊き、おこげを楽しむ。これを毎朝繰り返すというのだからレベルが違う。徳川慶喜公も食へのこだわりが強かったという、やはり血筋か。

中にはこれを面倒な奴だ、と一蹴してしまう人もいるだろうけども、食が趣味の人間としては同じ臭いを感じてしまうのです。

これらも含め、私たちが知っている徳川慶喜公とは違う家族とのつながりなどの一面を見ることができるし、現在の徳川家の生活・徳川慶朝さんの生活の一部を垣間見ることができるとても楽しい書籍だ。

私自身もいつかこんな食へこだわった暮らしをしたいと心から思う。個人的には、こんな御仁とはいつかどこかの酒屋で廻り合いたいものであります。

ちょっと読書に疲れたな、なんて方には打ってつけの書籍でございましょう。

徳川慶喜家の食卓
徳川慶喜家の食卓
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徳川 慶朝
文藝春秋
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