MAKERS―21世紀の産業革命が始まる/感想

産業が民主化され、企業や政府やその他の組織によって独占されていたものが普通の人々の手に移るとき、変革が起きる。

今日のアメリカ経済の4分の1はものを作ることで成り立っているように、ビットの世界は刺激的だが、経済のほとんどはアトムで出来ている。これほど、もの作りは国家の基本なのだ。

かつてはマルクスの言葉通り製造手段を支配する者が権力を持ったが、今や製造手段を支配しているのは個人で、マウス一つでの工場を動かせる時代が来ている。つまり、製造の手段が民主化された。これこそが本書の主題である「メイカーズ」、つまり、「21世紀の産業革命」だ。

これを読んで、僕は日本のいくつかの企業を思い出した。


富士フイルムから独立された八木啓太氏のBsizeがその一つ。スチールパイプに薄型LEDが付いたシンプルなデスクライト「ストローク」は「グッドデザイン賞」や「レッドドットデザインアワード2012」などを受賞し、数々のメディアでも称賛されている。


そしてもう一つはバンドマンから一転した寺尾 玄氏のバルミューダ。自然の風を送り出す扇風機GreenFan2などが有名だ。

いずれも自身で工場を持たずに家電(といっていいのかは分からないけど…)をデザイン・企画して作成している、まさに日本の「メイカーズ」の筆頭だろう。共に普通の商品などよりもかなり高額にも関わらず、デザイン面や機能面で価格を超える満足感を出すことで売り上げを伸ばし続けている。

これこそが、本書のいうところの「万人向けの大量生産品が支配する世界の中で消費者の目を引くのは、全員のニーズを満たすものではなく、個人のニーズを満たす商品だ。」の代表であるともいえる。

まだまだこの流れは始まったばかりであり、これからが本番と言えるだろう。本書は300ページにも上る大作だけれど、こういった「メイカーズ」の今とこれからを事例などを交えて詳細に描かれており、読むものを飽きさせない。

エリック・リースは言った。

製造手段を所有しているかどうかは問題ではない。製造手段の借り手であることが重要なのだ。

これまで大企業でしか行えなかった製造。これが覆りつつある今、時代は大きく変わろうとしている。つまり「21世紀の産業革命」、僕たちは今その開始時期に遭遇しているのかもしれない。

その現実を目の当たりにしたい人、もの作りに興味がある人にとって、本書はこれ以上の無い素晴らしい書籍になると思う。

MAKERS―21世紀の産業革命が始まる
クリス・アンダーソン
NHK出版
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