経営パワーの危機―会社再建の企業変革ドラマ/感想


年末にかけて追い込みのような仕事に忙殺され、ブログの更新だけではなく、貴重な読書の時間までも削ってしまっていた自分を反省するのと同時に、来年はもっともっと計画的に何事にも余裕をもって取り組んでいきたいと感じながら、すっかり人が少なくなり、まるで時の止まってしまったような東京でひたすら失った時間を取り返すかのように読書に勤しむことに決めました。

そんな中、まず手に取ったのはこれまで何度か書評でも書いてきた私の敬愛する著者である三枝 匡氏による書籍で、V字回復の経営―2年で会社を変えられますか戦略プロフェッショナル―シェア逆転の企業変革ドラマに続く3つ目の書籍になります。

今回の書籍も素晴らしいの一言に尽きる。

初版から十数年経過しているにも関わらず、まったく色褪せない本書は、これまでの書籍同様にストーリー仕立てで展開され、うだつの上がらない崩壊寸前の中小企業を世界規模の軌道に乗せるまでの詳細が描かれており、その中の主人公である伊達陽介に感情移入されながら、戦略とは何か、リーダーとはどうあるべきなのかを学ぶことができ、更には経営とは何たるものかを疑似体験することができる書籍です。

経営パワーの危機―会社再建の企業変革ドラマ/レバレッジメモ

一番大切にしなければならないのは社員の失敗体験
その失敗の傷が「お金のかかった会社の財産」として次のチャレンジに生かされ、その人たちがまた次の世代を鍛えるというサイクルを回すことができるようになれば、その企業は大変な経営パワーを発揮するようになる。

もう後がないと思うことが大切
自分がいま渡ってきた吊り橋は燃え落ち、もう元に戻ることはできない。そういう環境で取り組めば誰だって力を出す。そう、火事場の馬鹿力。そこで実力がつく。

自分はすべてのことに優秀ではない
「起業家的経営者による拡大の危機」を突き抜け、会社を次の発展段階に持っていくには、起業家が「自分はすべてのことに優秀ではない」「自分一人がすべてを引き回していたのでは、かえって会社の成長を阻害する」ことを認識しなければならない。

損益責任を負う
経営者的人材の育成は損益責任を負うところから始まる。本人が深刻に思う状況ほど習熟は早い。最後には勝利の味を覚えることが肝心だ。そのためには十分なサポートを事前に確保する必要がある。

肥大化した組織を活性化させるには…
組織を小さく切って人々の心に事業の原点を蘇らせることがポイントだ。

Think Big.
チマチマするな。理想をめざし、大きく考え、大きく構えろ。事業の夢はBigに考え、しかし商売の基本サイクルの原点を崩さないようにThink Small.で積み上げていくのがポイントだ。

成功のシナリオ作り
「いい話」に乗るか乗らないかは「勘」ではなく論理回路で決める。あくまで「データと論理」で検証しながら組み立てる。「競合の強み・弱み」と「自社の強み・弱み」の二つに照らして最適な戦略を探す。

マトリックスの手法
マトリックス思考が力を発揮するかどうかは、縦軸と横軸にどのような要素を持ってくるのかで決まる。競合に対峙するその会社のその時の社員心理に光明をもたらすものであれば、どんな単純なマトリックスでも強烈なコミュニケーション効果を発揮する。

無風展開期
新製品を導入してしばらくは、いつ風が噴き出してくれるのか不安な時期が続く。当事者としては一番精神的にきつく、この時期が長いと営業マンも気力を失いかける。しかし勝負はこの無風機関にすべきことをすべて完璧に実行しているかどうかだ。リーダーの「我慢の胆力」と「見識」が試される時期だ。

無理をしてでも一勝負
企業家精神旺盛な経営者が理屈を越えてあえて危ない橋を渡ることはあって当然だ。そんな時こそ戦略アプローチがモノを言う。事前の検討に時間とエネルギーをかけ、できるだけリスクをそぎ落とし、落とし穴が大体どこらへんにあるかを知ったうえで一歩踏み出す。

アル・ニューハース
ハイリスクハイリターンは我々の人生でも同じことだ。私は息子に子供の時には思い切って遊べ、そして大人になったら絶対に他人と同じことをするなといつも言っている。

経営パワーの危機―会社再建の企業変革ドラマ/まとめ

三枝 匡氏の書籍は本当に素晴らしい。方法論でもなく、物語だけでもなく、これほどまでに人を引き付けるのは筆者の文章力もさることながら、これまで想像もできないほどの修羅場を越えてきたからこその何かなのだろう。

もう後がないと思うことが大切、これは僕自身も本当に大事なのではないかと思う。かなり前の文章なので非常につたないけれど、モチベーションを高く維持する3つの方法でも記載した”尊敬できる方と仕事をする”ということは、これを大きく含んでいる。

もう後がない…こんな状況に自ら追い込み、成果を上げ続けることができれば、自分でも想像もできないほどの飛躍を遂げることができるのではないだろうか。

本書を読み、自分は2011年に果たしてそれほどまでに自身を追い込めたのかと自問すれば、主人公である伊達陽介と比較してしまうといささか足りなかったのではないかとさえ思ってしまった。

少しまとめ切れていない感はあるけれど、本書によって改めて、読書の素晴らしさを再認識しました。お薦めの書籍です。

経営パワーの危機―会社再建の企業変革ドラマ (日経ビジネス人文庫)
三枝 匡
日本経済新聞社
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