だから、僕らはこの働き方を選んだ 東京R不動産のフリーエージェント・スタイル/感想

「朝起きて、自分のやりたいことをやれる人。それが成功者だ」 ボブ・ディラン

本書はエッヂの効いたユニークな表現方法などでおなじみの東京R不動産、3名の経営陣による書籍です。数年前から自宅や事務所を引っ越しをする度にまずは東京R不動産の掲載物件から探し、そこに目ぼしい物件がなければ他の不動産サイトを見に行くというのが僕らのスタイルとして定着している。

東京R不動産は元・博報堂、マッキンゼー、などといった、いわゆる大手で働いていたメンバーによって創設された新しい働き方を提案する会社だ。20名近くに上るメンバーは全員フリーエージェントでの契約であり、報酬は自身の成績によってきめられる成果報酬スタイルを貫いている。普通の不動産会社からすれば”ありえない”不動産会社だ。

昨年のバズワードのようになっていたノマド、コワーキングなどに興味がある人には面白い書籍かもしれない。

ただ、僕はこういったスタイルが基本的には好きだし、非常に良い傾向だと思うのだけれども、個人的に言えば肌に合わないと感じることも多い。その理由の一つとしてはネット上でも話題になったけど、「やりたくないことはやらない」みたいなスタイルは苦手だからだと思う。余談だけど、やりたくないことをやることに価値がある時期は少なからずあるはずだからだ。若ければ尚更だろう。僕自身、その中でさまざまな感性や思考が鍛えられたのを今になって日々痛感しているからに他ならない。

さて、ではなぜそんなスタイルの東京R不動産は魅力的なコンテンツを生成し続けられるのだろうか?

東京R不動産はただのクリエイターによる”やりたいことだけを…”的な思考だけで運営されている訳ではない。半端に現実逃避的に美論をかざすだけではなく、好きなことをある程度「戦略的に」やっているのだ。

「好きだから食えなくてもいいんだ」ではなくて、好きなことだからこそ、社会的にきっちりと成立させ持続させることに心血を注ぐ。だから自分たちがストレスなく続けていけるように工夫する。そしてもちろん、好きなことの範囲を広げたりしながら、より充実しようと思いながら働いている。

好きなことをある程度「戦略的に」やることで、利益が生まれる。利益が生まれることによって初めて社会的存在価値が発生し、好きなことを継続させ、拡大させることができるというわけだ。

最近のノマド思考やフリーランスにはこの部分が欠けているから違和感を感じていたのかもしれない。何かと社会の為、NPOの為だとかいうことが多いけど、そもそも自分の生活をしっかりと組み立てられてこそ、だれかの為の仕事ができるということだ。(そういった人たちの声が大きいからそのように感じるだけかもしれないけども…)

これまでに組織から逸脱したことのない方には理解しにくい内容も多い書籍かもしれない。ただ、これからフリーランス的な動きをしようとしている方には是非一読をお薦めしたいと思う。

ただ、個人的には本書に書いてあることがすべてではないと断言できる。あくまで東京R不動産という組織が1つの大きな旗を掲げ、その旗に共感するフリーランサーたちが集結し、舵を切る人間がいる。そうした上で成立しているという話(勿論運も大きく味方している)であって、すべての組織・業種でこの仕組みが機能するかどうかは疑問符が残る。そういった意味では、読み方次第で影響力を変化させる書籍だとも感じる。

とはいえ、それらを数年前から立ち上げ、多くの試行錯誤があったであろうけども、組織として機能させている東京R不動産は凄いの一言である。

だから、僕らはこの働き方を選んだ 東京R不動産のフリーエージェント・スタイル
馬場正尊 林厚見 吉里裕也
ダイヤモンド社
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