「ハンバーガーを待つ3分間」の値段―企画を見つける着眼術/感想
何気ない「ハンバーガーを待つ3分間」の時間さえも、これまでとは違う視点でみることで、そこにこれまで気づかなかった「価値」があることに気づかせてくれる、そして物事の「本質」にふれさせてくれる、そんな表現だけでは抽象的で伝わりにくいかもしれないけれど、本書を読み終えた僕の感想はこんな形でした。
例えば、題名にもなっている「ハンバーガーを待つ3分間」の価値とはいったいなんだろう?
ファーストフードに寄せられている信頼、それは品切れ時に無理やり手を尽くして「ハンバーガー」を作ってくれることではなく、「あきらめる」という選択肢をも一緒に提示してくれることではないか、と筆者は言います。
続いてディズニーランド。ディズニーランドへいくと、ほとんどの時間をアトラクションの待ち時間に費やされるけど不快感を感じにくいのは「待ち時間」が予め提示されているからではないかと言います。「待ち時間を提示する」ことで精神的なストレスを減らし、「選択肢」を与えている、うーん、たしかにそうだなぁ。
これは「情報」なんですよね。情報とは受け手に「より有利な未来を選択する権利」を与えるものであり、何らかの選択肢が与えられていないものは「情報」とは言わずに「通告」とか「通達」とか、あるいは「宣告」などと言われます。お役所に腹を立てる人が多いのも、彼らからの情報が、情報ではなく「通達」であることが多いからではないか?
これまで何気なく通っていたファーストフードも、たまに感じるディズニーランドの心地よさも、こんな視点で見ていくと新たな発見があるのをまざまざと感じることができました。
本書では前述のように、我々に非常に身近なことを例題として、さまざまな奥深い思考を繰り広げていく書籍です。数ページ読み進めてしまえば著者の思考や視点の豊かさの虜になるのは必至。途中で読み止めるなどという愚行は出来るはずもなく、時間も忘れて一気に読み進める人も少なくないではないかと思われます。
また、広告に携わるものとして、シーマンを売り出す際の思考は必読の価値あり。シーマンはこれまでにない、非常に革新的なゲームとして僕の学生時代の思い出として色濃く残っています。
このシーマン、売り出す際に実は「ゲーム」という言葉を一切使わずに売り出されました。これはあまりに新しいタイプのゲームであるため、ゲームとして紹介してしまうとさまざまな場所でとうとうと説明しなくてはならず、メーカー側には宣伝コストとなって、消費者側には敷居の高さとなって跳ね返ってくるためだったそうです。
そこで、シーマンは「ゲーム」という言葉を一切使わず、すでに多くの人が知っているメタファーを使うことで、説明を回避する策に出ました。そのメタファーとは「ペット」という言葉です。これについて筆者は以下のようにまとめています。
革新的なものというのは往々にして、それを受け入れる引き出しがユーザーの心の中にないだけです。すでに見慣れた自然な姿を装って入ってくること、これこそが「なぜ今までなかったのだろう?」と思わせる、重要なキーであるように思います。
これって…、ものすごく重要なことを言っている…。
僕らはさまざまな方面で1つ1つの事柄をこのように本質的に捉えることで、新しい解決策や提案を行うことができるのではないか?そんな風に多くの可能性を感じさせてくれる本当に素晴らしい書籍でした。
この書籍は僕にとってかけがえのない書籍として何度も繰り返し読み直すことになりそうです。
新たな思考を生むきっかけを与えてくれる書籍としてお薦め。
幻冬舎
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