リーン・スタートアップ ―ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす/感想


スタートアップ(Startup)と騒がれることが多くなった昨今、この言葉の意味は一般に起業や起業で作られた会社や組織をさすけれど、本書ではもう少し広く「新規事業の立ち上げ」とでも言うべき意味でもつかわれています。

では、本書の題名にもなっているリーン・スタートアップ(Lean Startup)とはなんでしょうか?

本書によれば、リーン・スタートアップの概念は生産工程における無駄を徹底的に省くことに主眼を置く「リーン生産方式」を参考に生まれました。リーン生産方式は、トヨタ自動車の編み出したシステムを基に1980年代にマサチューセッツ工科大学が体系化したものです。ということは、リーン・スタートアップの根源的な考え方そのものは決して新しいわけではありません。

読み進めるうちに特定の方々には大いに共感して頂けると思いますが、トヨタ生産方式やシックスシグマ、ファンクショナル・アプローチなどのメソッドに非常に近い考え方を用いており、それをスタートアップに置き換えた場合の思考プロセス、また、著者であるエリック・リースの過去の実体験をブラッシュアップし、体系的なものとして落とし込んだメソッドとしてリーン・スタートアップとして紹介されている印象が非常に強いです。

尚、ファンクショナル・アプローチって何?という方々にはファンクショナル・アプローチ研修に参加してレポートを書いているので、以下をご参照ください。
参照:ファンクショナル・アプローチ基礎研修へ行ってきた

※私は過去に1年以上かけてファンクショナル・アプローチを学んでいます。

以下、いつも通りレバレッジメモとしてまとめています。

リーン・スタートアップ/レバレッジメモ

リーン・スタートアップ方式

  1. アントレプレナーはあらゆるところにいる。
  2. スタートアップだからガレージが職場でなければならないわけではない。本書におけるスタートアップとは、とてつもなく不確実な状態で新しい製品やサービスを創りださなければならない人的組織を指す言葉であり、そこで働く人は皆アントレプレナーである。だからアントレプレナーはあらゆるところにいる。また、リーン・スタートアップという方法はあらゆる業界・セクターにおいて、また、大企業を含むあらゆるサイズの企業において活用可能である。

  3. 起業とはマネジメントである。
  4. スタートアップとは製品ではなく組織である。だから、先行きの不透明性という状況に即した新たな経営方法が必要になる。「アントレプレナー」とは、イノベーションで成長していこうと考える近代企業に必須の職種だと私は考えている。

  5. 検証による学び。
  6. スタートアップの存在意義は、モノを作る、お金を儲ける、顧客にサービスするなどだけではない、どうすれば持続可能な事業が構築できるのか、それを学ぶこともその意義である。この学びは、ビジョンの要素ごとに確実実験を行い、科学的に検証することができる。

  7. 構築-計測-学習。
  8. アイデアを製品にする、顧客の反応を計測する、そして、方向転換(ピボット)するか辛抱するかを判断する。これがスタートアップの基本である。だから、スタートアップを成功させるためには、このフィードバックループを順調に回すように社内の仕組みを調整しなければならない。

  9. 革新会計(イノベーションカウンティング)
  10. 起業成果を高めたり、イノベーターに責任を持たせたりするため、アントレプレナーは、おもしろくない部分に注力する必要がある。進捗状況の計測方法やチェックポイントは設定方法、優先順位の策定方法などの部分だ。そのためには、スタートアップ-およびスタートアップに責任を問う立場の人々-に適した会計手法が必要である。

今までのアントレプレナーは?
「とにかくやってみよう」を方針とする。しかし、この方法では成功を呼び込むより混乱を招くことの方が多い。

数えきれないトレードオフ
アントレプレナーは数えきれないほどのトレードオフに直面する。その際、重要なポイントになるのは、検証可能な予測が行えるようになる点である。

自分がした仕事を捨てる
(大間違いだろうがなんだろうが…)最初の製品を作らなかったとしたら、顧客が何を考えているのかを学ぶことはできなかったはずだと私は自分を慰める。我々の戦略が間違いだと学ぶことはできなかったはずだ。この言い訳には真実のかけらがある。

価値と無駄
我々の努力のうち価値を生み出しているのはどの部分で無駄なのはどの部分なのか。

この製品は作るべきか?
「この製品は作れるか」と自問したのではだめ。いまは、人間が思いつける製品ならまずまちがいなく作れる時代だ。問うべきなのは「この製品は作るべきなのか」である。このような問いに答えるためには、事業計画を体系的に構成要素へと分解し、部分ごとに実験で検証する必要がある。

アントレプレナーにおける重要な2つの仮説

  1. 価値仮説(value hypothesis)
  2. 顧客が使うようになったとき、製品やサービスが本当に価値を提供できているか否かを判断するもの。

  3. 成長仮説(growth hypothesis)
  4. 新しい顧客が製品やサービスをどうとらえるかを判断するもの。

ピボット(pivot)-方向転換
構築-計測-学習のループを回りおえたとき、われわれは、アントレプレナーが必ず直面する難しい問いに答えなければならない。当初戦略から方向転換するか、当初戦略を維持するか、だ。仮説に一つでも誤りがあると構築-計測-学習ループでわかった場合は、根本的に見直して新しい戦略的仮説へと方向転換する必要がある。繰り返し行う実験の総合的な生産性が上がれば、それはピボットが成功した証拠だ。

ピボットとは戦略的仮説である
ピボットとは、単に変化を進めるものではない、製品、ビジネスモデル、成長のエンジンに関する根本的な仮説を新たに策定し、それを検証できる構造の変化をピボットと呼ぶのだ。これこそリーン・スタートアップ方式の肝だといえる。ピボットがあるからリーン・スタートアップを採用した企業は失敗から立ち直れる。失敗しても、失敗だったと気づき、別の道をすばやく見つけることができるのだ。

顧客が気にするのは…?
作るのにどれだけ時間がかかったかなど、顧客は気にしない。顧客が気にするのは、自分にとっていいか悪いかである。

バッチサイズを小さくしろ
バッチサイズを小さくすれば、構築-計測-学習のフィードバックループを競合他社より短い時間で回せるという点だ。顧客から素早く学ぶ能力こそ、競争力の源泉としてスタートアップが手に入れなければならないものなのだ。

時間のために品質を犠牲にしてはならない
これこそがリーン生産方式の肝だ。いま品質問題が発生しているなら、あるいは品質問題を見逃せば、その結果生じた欠陥によって後々スピードダウンせざるをえなくなる。欠陥があるとやり直しが必要になる、士気が低下する、顧客から苦情が入るなど、前進を妨げ、貴重な資源を食いつぶす原因がいろいろ発生する。

根底には人的問題が隠れている
何か問題に直面したとき、立ち止まって「なぜ」を5回繰り返してみる。これは言うは易し、行うは難しだ。これは単に真因を調べることが目的ではなく、チーム内に共通の理解と視点を醸成し、メンバー間の距離を小さくする情報を明らかにする方法だ。

リーン・スタートアップの本質
地図を捨ててコンパスを頼りに進め。

メトカーフの法則
ネットワーク全体の価値が参加者の2乗に比例する。

マーク・クック
成功とは機能を提供することではありません。成功とは、顧客の問題をどうしたら解決できるのか学ぶことです。

ショーン・キャロラン
スタートアップは飢え死にしない。溺れ死ぬのだ。

ヘンリー・フォード
何かを変えたからと言ってそれが改良になるとは限らない。

リーン・スタートアップ/まとめ

400ページにも上る大作のため、手に取るのは少々億劫かもしれませんし、読み進めるにも時間がかかってしまうかもしれませんが、一読の価値あり、というのが私の感想です。スタートアップに限らず、マネージャーやエンジニア、モノ作り(サービス提供者)に関わる人々には価値の高い書籍かもしれません。

特にこれまでにこの類の書籍(例えば内容は別物ですけどザ・ゴールシリーズなどが近いかな?)を手に取ったことがない人には目から鱗となる可能性も含んでいます。

ただし、ご注意いただきたいのは、ここで記載してるばかりの良いことだけがリーン・スタートアップの特徴ではないということです。その代表的な一つが、リーン・スタートアップの場合、スペシャリスト一人ひとりの効率向上は目的に含まれないことだと思います。

機能横断的に仕事をして検証による学びを得るチームを作ることに主眼を置いています。行動につながる評価基準、継続的デプロイメント、全体的な構築-計測-学習のフィードバックループなど、そのためのテクニックはいずれも、チームメンバーの個人的効率を落とします。どれほど早く構築できても意味がない。どれほど速く計測できても意味がない。リーン・スタートアップの中で大事なのは、ループ全体を少しでも早く回すことなのです。

スタートアップの肝は、成功し、世界を変えていくことにあるといいます。そのために人々がつぎ込む情熱やエネルギー、ビジョンを無駄にするのはもったいない。私たちはもっと上手にスタートアップをマネジメントすることができるだろうし、そうしなければいけないのかもしれません。その方法を解説してくれるのが本書です。

最後にリーン・スタートアップを非常に分かり易く表現している言葉があったので抜粋します。

成果が上がったのは?
前よりも一生懸命に働いたからではなく、上手に働いたからだ。

「失敗を達成する」なんてことを少なからず経験したことがあるのではないでしょうか。「やってはいけないことをすばらしい効率で行うほど無駄なことはない」のです。その為には、我々も上手に働くことが重要になってくるのです。無駄を省くためには、リーン・スタートアップのメソッドを取り入れる必要がありそうです。

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